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画像参照:デアゴスティーニ・ジャパン

「週刊○○、創刊! 創刊号は特別価格、298円!」

このフレーズ、皆さんもテレビCM等でよく耳にするのではないでしょうか?

テーマやジャンルを絞った事柄について定期的に分けて刊行し、完成させる方式の出版物は分冊百科(パートワーク)と呼ばれています。代表的なのは、CM等でおなじみの「デアゴスティーニ」社ですね。

こうしたパートワークの多くは、テーマによっては創刊号が百万部を超えることもあり、他の雑誌等が出版不況で部数を落とす中では比較的健闘していると言えるでしょう。また最後まで購入を続けてもらうと、代金総額が10万円を超えることもあります。

 

ちなみに各社から発刊されているパートワークは、以下のインタビュー記事からもわかるように、ターゲットを「シニア、中高年の男性」と明確に定めたマーケティングを行っています。

仕事をしたら“パートワーク”が売れた:山口百恵「赤いシリーズ」のDVDが売れている――なぜ? 講談社の人に聞く(Business Media 誠 2014/3/19)

そんなパートワーク市場を支えているのは、団塊世代の男性だ。全巻をそろえると10万円を超えるモノも少なくないので、お金に余裕のある人が多い。また、趣味を楽しむ時間的な余裕のある人も多い。

出所:Business Media 誠

出版&新聞ビジネスの明日を考える:徹底した事前リサーチが鍵――デアゴスティーニの「パートワーク」ビジネス(Business Media 誠 2010/6/8)

読者ターゲットの中心は、中高年男性だ。「私が手がけているのが歴史物中心ということもありますが、中高年の男性読者が多いです。ただ最近は歴史物の場合でも女性読者が増えています。
どのタイトルも、創刊前に徹底的なマーケティングリサーチを行います。テーマや構成の決定に当たっては、事前にネットでリサーチをしたり、そのテーマに興味のある人を集めて座談会(形式のグループインタビュー)を行ったりしています

出所:Business Media 誠

ヒット続出 デアゴスティーニのパートワーク・シリーズ(ORICON STYLE 2006/4/19)

我々の商品はテーマによってターゲットは異なりますが、多くの商品の主要な購買層は、経済的精神的に余裕のある中高年以上と捉えています。団塊世代引退の07年を目前に控え、今後も彼らの求める商品を企画していきたいと思います。

出所:ORICON STYLE

今回は、こうした各社から発刊されているパートワークの主なテーマから、「シニア層はどんなコンテンツを好むのか」について考えてみたいと思います。

 

「デアゴスティーニ」はテーマ数、バランスともにハイレベル

全シリーズ一覧 | DeAGOSTINI デアゴスティーニ・ジャパン

【主なテーマ】
・乗り物系(スポーツカー、ハーレー、蒸気機関車)
・ミリタリー系(戦車、戦艦、戦闘機、戦争映画)
・歴史史跡系(武将、江戸の生活、城、社寺仏閣)
・音楽系(ジャズ、クラシック、バレエ)
・映画ドラマ系(時代劇、掲示コロンボ、赤毛のアン)
・アニメ系(ガンダム、マクロス、銀河鉄道999)

デアゴスティーニはこの分野の先駆けだけあり、シニアが好むテーマの王道を幅広く揃えている印象です。

このうち、乗り物系やミリタリー系は、パーツを少しずつ集めて2年ほどかけて大きなモデルを作るタイプが主流です。創刊号は500円ほどですが、それ以降は2000円前後、総額10万円を超えるシリーズも多いです。一方で音楽系や映画ドラマ系は、CDやDVDが付属しています。

意外だったのはアニメ系の充実。ガンダムは1979年、マクロスは1982年、銀河鉄道999は1978年の放映なので、それを見ていた世代がそろそろ中高年の世代に差し掛かっていることもあるのかもしれません。

ちなみに最近の一番のヒットテーマは、「週刊ロビ」です。本格的な二足歩行ロボットを自分で作ることができるということで、異例の再刊行までされています。

 

「アシェット」はコレクション系とファンシー系に強み

Hachette Collections Japan

【主なテーマ】
・乗り物系(鉄道、名車、客船)
・ミリタリー系(戦艦、戦闘機)
・アウトドア系(魚釣り)
・コレクション系(世界の硬貨、懐中時計)
・ファンシー系(編み物、水彩画、カリグラフィ)

アシェットが得意とするのは、コレクション系とファンシー系です。

デアゴスティーニのように大きなものを組み立てるのではなく、硬貨や時計などの小物を少しずつコレクションしていくタイプを多く扱っています。

また編み物やカリグラフィなどの女性が喜びそうなテーマも多く見られます。

 

「朝日新聞出版」は文学とミュージアムに特色あり

朝日新聞出版 最新刊行物:分冊百科

【主なテーマ】
・歴史史跡系(日本史、古寺、仏教)
・ドラマ系(時代劇)
・旅行系(鉄道路線、駅舎、世界遺産、百名山、シルクロード)
・文学系(日本文学、池波正太郎、藤沢周平、源氏物語)
・ミュージアム系(国宝、博物館、美術館)
・スポーツアウトドア系(甲子園、阪神タイガース、ガーデニング)
・時代系(昭和、20世紀)

朝日新聞出版は、他の出版社と比べてドラマ等の映像コンテンツは少なめです。その代わりに、他にはあまり見られない文学系やミュージアム系のテーマが充実しています。

また、「昭和」「20世紀」という直球なテーマも用意されています。

 

「講談社」は懐かしの映像コンテンツで勝負

講談社BOOK倶楽部:定期購読パートワーク

【主なテーマ】
・ドラマ系(あぶない刑事、山口百恵「赤いシリーズ」)
・お笑い系(昭和の喜劇)
・プラモデル系(昭和の街並み、ゼロ戦)

講談社はそれほどレパートリーは多くありません。現段階では、懐かしの映像コンテンツがメインとなっています。

ちなみに教室でも、普段ドラマは見ないのに、刑事ドラマの「相棒」だけは欠かさず見ているというシニア男性もいらっしゃいました。刑事コロンボも他社でまとめられていますし、刑事ものは長年に渡り支持が高いジャンルなんですね。

 

「小学館」は定番に加えて皇室もカバー

ウイークリーブック | 雑誌 | 小学館

【主なテーマ】
・音楽(ジャズ、クラシック)
・文化芸術系(落語、絵画)
・歴史系(日本史、歴代総理、皇室)
・旅行系(観光列車、世界遺産)

小学館で特徴的なのは、「歴代総理」「皇室」といったあたりでしょうか。

昼間のワイドショーなどではよく皇室の特集映像を目にしますし、このあたりのコンテンツも中高年には受けがよいようです。

 

スポーツ系を専門的に扱う「ベーマガ」と「集英社」

SportsClick:週刊プロ野球セ・パ誕生60年|ベースボール・マガジン社
『燃えろ!新日本プロレス』至高の名勝負コレクション|集英社

ベースボールマガジンと集英社は、それぞれスポーツのテーマ1つを専門的に扱っています。「スポーツ」は中高年男性に人気があるわりに、なぜか他の出版社のパートワークにはあまり採用されていないようです。

スポーツはフィギュアやユニフォーム等のグッズとも相性が良いので、個人的には今後もう少し増えてくるのではないかと期待しています。

 

テーマが刺さると、こんな反応が出てきます

これまで各社のテーマを見てきましたが、実際、「デアゴスティーニ」でウェブ検索をすると、「買いました」「楽しい」という中高年ブロガーの記事がよくひっかかります。中には心をわしづかみにされている人も…。

「週刊 My Music Studio」
これは作曲ができるようになるためのシリーズ!^0^
背中に電流が流れましたね!!!100万ボルトくらい!!

出所:認知症という希望

こういうシニアの心理をデアゴスティーニ社は、上手く汲み上げた商売をしているのでいつも感心しています。
最近のシニア向け商品でよかったのは「落語100選」、「時代劇特集」、「歴史のミステリー」、「ジャズコレクション」です。
全巻は揃えていませんが、いくつかは私も買ってしまいました。

出所:ソフィアの森の映画と音楽&広告、マーケティング

デアゴスティーニ社から送られて着ましたパーツを組み立てることによりまして、二足歩行ロボットを我が手にしました。
二足歩行ロボットに”名前”を付けて、ペットとしまして育ててみたいものであります。

出所:ガンバレ!まみんどクン&やすたくチャン

こういった記事を読むと、練りに練られた各社のパートワークのテーマが、シニアにかなり深く刺さっているのがわかりますね。

 

シニア向けコンテンツは、「ミクロな市場」を意識すること

各社のテーマを横串で確認していると、いくつか共通するポイントが見えてきました。

まず1番目は、「古いもの、懐かしいもの」。これはノスタルジー消費とも言われますが、映画やドラマ、乗り物、スポーツなどが該当します。中には「昭和」という直球テーマのものもありました。近いテーマとしてミリタリー系も人気が高いのですが、もう戦後70年が経ちますから、これはノスタルジー消費というよりは、その機構やデザインそのものに惹かれる人が多いのではと思います。

2番目は、「すぐには役に立たないこと」。文学、歴史、芸術、宗教などは、学んだからといってすぐに実益が得られるわけではありません。こうした分野は、多くの男性がビジネスマンとして働いているときにはなかなか手を出せないものです。教室にいると、仕事をリタイアした男性からは、なるべく仕事に関する実益的なことからは離れたいという声を聞きます。

3番目は、「更なるコト消費につながること」。例えば史跡や遺産について学べれば、旅行で実際に尋ねることができます。クラシックや落語について学べれば、実際に劇場に行ってみようという話にもなります。時間が潤沢にあるシニアにとって、その使い道の指針になったり、時間の質を高められるテーマは喜ばれるはずです。

 

一般的にシニア市場は「ミクロな市場の集合」とよく言われますが、今回焦点を当てたパートワークのマーケティング戦略は、そのミクロな市場一つひとつに丁寧に対応していることがよくわかります。

シニア向けのコンテンツを考える際は、やはり年代で一括りにするのではなく、こうした興味関心に沿った、きめ細かいアプローチができるかどうかがカギになりそうですね。

 

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