皆さんご存知の通り、ウェブサイトのユーザビリティ評価において、「ユーザーテスト」は非常に優れた手法です。
しかし、弱点もいくつかあります。
その一つが、「実験室環境」、つまり作られた環境と突然与えられたタスクでテストが行われることで、ユーザーが普段と違った行動をとってしまう可能性が排除できないことです。
もちろんこれを防ぐために、できるだけ実際の利用シーンに即した自然なタスクを用意したり、「リモートテスト」で自宅の慣れた環境でテストしてもらうこともできますが、やはり一部の限界は感じますね…。
今回は、こうしたユーザーテストの積年の課題に対して有効な対策として、改めて「マウス録画」ツールの活用についてご紹介したいと思います。
「マウス録画」が使えるサービスはこの2つ
「マウス録画」ツールとは、自社のサイトに特定の「JavaScriptタグ」を埋め込むことで、来訪者がサイトをどのように利用しているのか、録画ができてしまうというものです。
日本で展開している代表的なサービスは、以下の2つです。
Ghostrec(ゴーストレック)
こちらのサービス自体は海外で開発されてしばらく経つのですが、昨年末に日本の会社が販売ライセンスだけではなく、開発の権利も買い取ってしまいましたので、既に日本のツールと言ってよいでしょう。
以下のページの「クイックユーザビリティ調査」メニューから動作デモを体験できますが、ユーザー行動を観察するには十分な解像度、フレームレートの動画が得られます。
デモンストレーション選択(GhostRec.jp)
また通常のマウス録画機能に加え、下の画像のように特定のユーザーにタスクを提示して「リモートユーザーテスト」ツールとして活用することも可能です。マウスの軌跡を基にしたヒートマップの抽出にも対応しているので、ある程度の人数にテストURLを一斉配信すれば、かなり制度の高いアウトプットが得られそうです。
ちなみに課金形態はPV課金なので、必要な時に必要なだけデータを抽出できる点も使いやすいのではと思います。
ClickTale(クリックテール)
こちらも開発は海外で、日本の会社が代理店として販売、導入支援を行っています。
既に導入している会社も多いのですが、どちらかというと、マウスの軌跡やスクロール行動から算出する「ヒートマップ」機能がウリで、マウス録画機能はあまりプッシュされていないようです。
料金形体は非公開のようなので、各自問い合わせてみてください。
GhostRecとClickTaleを比較すると、本質的な機能自体にはそれほど差はないように感じます。しかし、どちらかというとタスク提示機能がある前者は「ユーザーテストの延長」、ヒートマップ機能を強調する後者は「アクセス解析の延長」という印象を受けます。
「マウス録画」は自然なタスクを観察できる
「マウス録画」された動画を観察するのは、実験室環境で与えられたタスクを観察する従来のユーザーテストとはまた違った緊張感があります。まるで他人のデスクトップをのぞいているようで、結構ドキドキするものです。
ここで観察できる行動は、誰にも指示されずに使っているため、本当にリアルで生々しいものばかりです。
・1ページだけ見て直帰してしまう人
・ファーストビューから少しもスクロールしない人
・文字が読みにくかったのか、画面を拡大している人
・入力フォームで発生したエラーに気付かない人 等々
通常のユーザーテストでは、ユーザーの皆さんから多少の「心遣い」を感じたり、「やらなくてはならないからやった」という声を聞いたりするのですが、自然なタスクにおいてはそんなことは全く関係なし。役に立たないと感じたサイトへの反応は、本当に遠慮がなく殺伐としています。
私が初めてマウス録画の動画を目にしたとき、「ウェブサイトというのは制作者が思ったよりも『ぞんざい』に扱われているんだなぁ」と改めて感じさせられました。
でも、これが本当の「リアルな使われ方」なんですね。
アクセス解析とユーザーテストの間を埋める!
ここで「マウス録画」機能のメリットとデメリットを、一旦まとめてみます。
メリット
・自然なタスク下で気遣いのないユーザー行動が観察できる
・アクセス解析に現れにくい「ページ内」の行動がわかる
・実際のブラウザ表示領域がわかる
・スマホやタブレットにも対応し、PCとの違いがわかる
・比較的テスト数が稼ぎやすい
デメリット
・行動は観察できるが、感情や考えていることがわからない
・見つかった問題点に対して深堀りができない
・こちらが想定している使い方が見られるとは限らない
・見たい行動をしている人以外のPVも加算されてしまう
ここで他のユーザー行動を把握するための手法と、その特徴を比較してみましょう。
こうして見ると「マウス録画」は、「アクセス解析」と「ユーザーテスト」の中間のようなツールと位置づけることができるでしょう。アクセス解析だけでは物足りない定性的なページ内行動部分を補完し、また前項で挙げたユーザーテストの弱点である「自然でリアルなタスク」という部分も埋めてくれます。
またどちらかといえばページ内の分析が得意なので、リンク要素の多いトップページや、入力操作の多いフォームページなどで活躍してくれるのではないでしょうか。
一方で、行動を確認するのは得意でも、それがなぜ発生したのか深堀りしていくことは苦手なツールなので、そこは他の手法でカバーしてあげる必要がありますね。
サイトの実態を正確に把握するためには、「多面的に評価すること」が重要です。
そのためには、各手法の特徴をしっかりと把握した上で、それらを必要に応じてうまく取捨選択し、組み合わせて用いるとよいでしょう。
「マウス録画」は比較的低コストで実施できる手法ですので、皆さんもぜひ積極的に活用してみてはいかがでしょうか?