本稿は、UX・ユーザビリティに関する記事を12月1日から25日までリレー投稿していくUX Japan Advent Calendar 2013への寄稿記事です。
みなさんこんにちは。マミオンの佐藤です。
UX advent Calendarに何を書こうか迷いましたが、そちらから来てくださった方なら、「UXとは何ぞや」「よりよいUXを実現するために」「海外の最新動向」等々の話はもう十分という頃ではないでしょうか?
ですので、今回は私のユーザビリティコンサルティングの礎となっている、シニアが多く通うパソコン教室での興味深い出来事やそれに基づく考察などを、当時のTwitterのつぶやきとともにご紹介させてください。現場の雰囲気が少しでも伝わり、UXやユーザビリティのヒントになれば幸いです。
鉄板の「病院」「葬式」「戦争」トーク
普段同年代の人と話していても、なかなか出てこないこれらの話題。最初は戸惑いましたが、皆さんサラッと口にするあたり、日常の一部であることを実感します。
「来週から入院なんだよ」と言いながら教室に勉強に来る人すごい。
— satojun (@stj064) 2013, 12月 2
年賀状のシーズン開幕。教室に来られるシニアの方は、去年使った住所録から、亡くなった方を削除するところから作業が始まります…。
— satojun (@stj064) 2012, 11月 7
教室では、「遺影どうしようかしら」的な話が普通に交わされています。
— satojun (@stj064) 2013, 11月 18
タブレットでメールの送り方を習っているシニア女性。メッセージで使う顔文字の意味を一つひとつ解説するなど。「誰かが亡くなったときは、(T T)を送ればいいんですか?」と聞かれ、全力で止めた。
— satojun (@stj064) 2013, 3月 28
教室のお茶スペースで、陸軍トークが始まりました。
— satojun (@stj064) 2012, 3月 8
10年なんてあっという間
教室にいると、妙に懐かしいものに遭遇する確率が高いです。皆さんモノを大事にされているのがよくわかります。
また逆に、Windows8やiPadから使い始めた方はパソコンの「デスクトップ」に違和感を持つこともあるようで、ユーザインタフェース改善を業とする自分にとっては衝撃でした。
教室にMOディスクを持ってきた生徒さんがいる…。なつかしす。
— satojun (@stj064) 2013, 6月 6
教室でパソコンの買い替え引っ越し対応の方。前のマシンはなんと「Windows Me」の見たことのない一体型パソコン。Windows8になったらひっくり返るんじゃないかと心配。
— satojun (@stj064) 2013, 9月 27
Win8から使い始めたと思われる生徒さんからの質問。「デスクトップ画面って何のためにあるんですか?」そうかー、そういう時代なのかー。
— satojun (@stj064) 2013, 3月 8
何を勉強したらホームページを自由に使えるようになるんでしょうか?
最近では、ネットを使うシニアも増えてきました。積極的に使おうとする人もいれば、様々な手続き上避けられないという場合も。
観察をしていると、初心者にとってハードルの高いサイトもまだまだ多く、そうした状況を制作者はあまり把握できていないように思います。「ホームページがうまく使えなかったのは自分が悪いんだ」とユーザーに思わせてしまうなんて、サイト制作側からしたら本当に申し訳ないことですよね。
教室に来ているシニア男性。高速バスのウィラートラベルでチケット予約しようと試行錯誤するも、途中でつっかかって諦めモード。「電話かけたいのにホームページに番号が書いてないのが困るね!予約するなってこと?」と。多分こういうシーンたくさんあるんだと思う。もったいない。
— satojun (@stj064) 2013, 7月 3
VISA申請をしたいというシニア男性がいらっしゃいました。最近はVISAの申請もネットで予約してから大使館に行かないとダメらしく、代わりにやってほしいと。「こういうの、何回くらい教室に通えばできるようになるんですか?」「自分で買い物もできたらいいなぁ」と言われていました。
— satojun (@stj064) 2013, 2月 8
"70代の彼女は帰り際にこのように言った。「何を勉強したら、こういうホームページを自由に使えるになるんでしょうか」"実例で納得!シニアが使えないサイトの例 | マミオン有限会社 //t.co/C56qIFGaoK #Zenback @zenbackさんから
— satojun (@stj064) 2013, 10月 3
アカウント管理が苦手
シニアがネットを使えない理由の1つが、アカウント問題です。パソコンを立ち上げたらWindowsのアカウント、ヤフーのメールを見るときにはまた別のアカウント、ショッピングをしたいときにはまたまた別のアカウント。
サービスによってアカウントを使い分けるという意識があまりないようで、メモをとっていないことが多いです。そしてとったとしても失くしてしまったり、転記ミスがあったりと、これがこじれると地獄絵図になります…。
早速、昨日教室に行って横目で見ておもしろかったのは、80歳の方がネットで登録作業していて「アカウントって何?」とスタッフに質問していたこと。その発想はなかった…。でもそれに対してちゃんと例えを使ってすぐに切り返すスタッフの頭の回転の良さにもビックリした、という話。
— satojun (@stj064) 2012, 1月 7
今日のAndroid持ち込みの方、Googleアカウント4つも持ってた…。パスワード忘れたり、スペル間違ったりで何個も作って、どれがどれなのか全く管理できていない。ログインとかアカウントとかの正しいメンタルモデルもなくて、変な使い方が染みついていた。このままじゃまずいよなぁ…。
— satojun (@stj064) 2012, 11月 12
70代女性。「検索しても出てこないの」と言われて見に行ったら、Yahooショッピングのフォームだった…。今どこのサイトにいるのか意識しにくいのと、ネットサービスのメンタルモデルが十分できてないのが原因かなぁ。
— satojun (@stj064) 2012, 11月 6
近くにいる中高年の女性。iPadを習っていて、「Googleに入る」「Googleで見れる」って言葉を頻発してるんだけど、微妙に用法が違って気持ち悪い。IT、Webサービスの基礎的なメンタルモデルができてないところに名前だけ聞くからだろうな~。
— satojun (@stj064) 2013, 2月 7
パソコンは「覚える」もの?
特にITが苦手なシニアにとっては、パソコンの操作は「覚える」ものになってしまっています。細かい手順を一生懸命メモしている人をよく見かけますが、状況が少しでも変わると全くのお手上げになってしまい、なかなか勉強が進まない場合も多いです。
本当は、自分で試行錯誤しながら学んでもらえるのが一番よいのですが、「不用意に触るとパソコンが壊れる」という意識が邪魔しているせいか、それもままなりません。
@hashcc パソコン教室にくるシニアの方々も、操作は「理解する」のではなく「覚える」ものだと思っている場合が多いです。その場限りの手続きを全部メモしたりとか。もちろん若い人も最初は同じなんですが、そこから理解のステージまで上がるスピードに差があるように感じます。
— satojun (@stj064) 2012, 8月 11
これはパソコン教えてても思う。"彼らは抽象概念を扱うのが苦手だ。直接そのものを見せないと理解できない。故に、経験を非常に重視する。本に書いてあることから自分の生活や考え方をアップデートすることができな / “本当は正しい「低学力の…” //t.co/AGiEzTJi2a
— satojun (@stj064) 2013, 8月 11
パソコン教室にいると、「わからないから押すのが怖い」という声をよく聞く。若い人は、違ったら戻せばいいと簡単に言うけれども。間違えても元に戻すことができるということが画面から伝えられないと、使いやすさを著しく損なわせるんだろうな。
— satojun (@stj064) 2013, 5月 24
初心者用と熟達者用のUIを分けるのは愚の骨頂
「パソコンが苦手な人のためには、易しい画面を別に用意すればいいのでは?」
これはサイト制作をしている方からよく尋ねられる質問ですが、個人的にはあまり賛同できません。まずそうしたユーザーは、自分で初心者と認識して画面に切り替えることはしませんし、易しい画面を使ううちに成長して普通の画面を使うようになるということもありませんね。
「初心者用と熟達者用のUIを分けるのは愚の骨頂」ってジェフ・ラスキンが言ってた。 / “ドコモが考える、シンプル:存在を意識させないUI――「docomo シンプル UI」に込めた“シンプル”の意味 (1/2) - ITmedia…” //t.co/CrBI6DAk79
— satojun (@stj064) 2013, 6月 27
長く使っているからといって、初心者を脱するわけではないということ。:永遠の初級者 | マミオン有限会社 //t.co/2s7ro53Kvd #Zenback @zenbackさんから
— satojun (@stj064) 2013, 7月 23
まとめ:これからますます重要になるシニアユーザーの理解
今年、ユーザビリティ界の重鎮であるニールセン・ノーマン・グループは高齢者ユーザーのウェブサイト利用に関するレポートを発行しました。購入して読んでみたところ、マミオンで販売しているウェブサイトのシニア対応ガイドラインとかなり似た内容でした。日本と海外でも、どうやらそれほど状況に差はないようですね。
ニールセン・ノーマングループの高齢者ユーザーテストのレポートを読んでいるが、結果の傾向とか特徴とか、あるある過ぎてヤバい。うちの出してるガイドラインを参考にしてるんじゃないかと思うくらい。訪問調査するとお茶と焼き菓子を出してくれたり、雑談のための時間が必要ってところでワロタ。
— satojun (@stj064) 2013, 6月 20
これからの商品・サービス設計においては、増え続けるシニアの存在を避けて通ることはできません。私がマミオンで働こうとした理由の一つが、そうしたユーザーを肌身で理解するため、「どれだけ近くに寄り添うことができるか」という観点です。
こうした考えに至ったのは、以前、知人とTwitter上で交わした会話の影響も大きいと思います。UX、ユーザビリティについて考え直すきっかけになりました。
HCD的なエピソードその1(Togetter)
うちのおばあちゃんは、毎日韓流ドラマを予約録画して、3話ずつDVDに焼いてる。これは私が究極に簡単な手順書を作ってあげたからで、これのおかげで朝起きて新聞見るのが楽しいし、毎日も楽しいのって言ってくれてる。
(中略)
当時は大学生で、そんな理想的な流れとかUXがどうとかなんてまったく知らなかったけど、ほんとに使えるようになって喜んでもらいたいと思ったら、自然にそういう手順をやるんだね。
出典:Togetter
今回ご紹介したつぶやきから、「自分と違う世代について、まだまだ知らないことがたくさんあるんだ」と少しでも感じ、UX・ユーザビリティの"向こう側"にも興味を持っていただければ嬉しく思います。