先月上旬、話題の『らくらくスマートフォン』が発売となりました。
パソコンやケータイの『らくらくシリーズ』で成功されている富士通さんの開発です。
遅ればせながらドコモショップで触ってきた感想と、教室等でのシニア層の方々の反応、そしてそこからAndroid端末の開発の方向性について考えたことを記しておきます。
スマホなのにガラケーと近い操作性
らくらくスマホの一番の特徴が、『らくらくタッチパネル』の採用でしょう。
タップしただけでは反応せず、押し込むことで決定操作ができる独自パネルです。
画像参照:らくらくスマートフォン|NTTドコモ
触る前はどうなのかなーと懐疑的でしたが、しばらく試しているうちに感覚をつかめるようになりました。レスポンスも早く、押し込んだ時にフルッと震えるフィードバックと合わせて小気味よい使い心地でした。
特におもしろいなと思ったのは、文字入力画面などで、指を画面に乗せたままグッと押す力を調整するだけでボタンの連打ができるというワザ。これ、物理ボタンがある「ガラケー」の操作感覚にとても近いなと感じました。
教室でシニアがiPhoneを使う様子を見ていると、やはり一番のハードルは文字入力の難しさなんですよね。タップした感覚がうまくつかめなかったり、フリック入力のスピードについていけなかったり。そういう意味で、ガラケーとほとんど同じ感覚で文字が打てるのは大きなアドバンテージだと思います。
「戻る」ボタンの位置がステキ
らくらくスマホの「戻る」ボタンは、ほとんどの場合、最下部に置かれています。
この位置が、絶妙に押しやすくてラクなんです。
iPhoneであれば「戻る」系のボタンは左上が定位置で、片手で操作する場合は少し指を伸ばさないといけません。その度に、スマホを持つ手も不安定になってしまいます。シニアの方々であればなおさらでしょう。
結構頻繁に使うボタンなので、この位置の違いは「扱いやすさ」の印象に地味に効いてきます。
アイコンに頼らないデザインを追及している
アイコンは「怖くて押せない」
つい先日、某社社長のインタビューで「すべてをアイコン化しているので直感的なんです」などという発言がありましたが、実際アイコンを初めて見た人は、それが何を意味しているのかわかりません。特に今回のようなIT初心者、シニア層にとっては、わからないものは「怖くて押せない」んです。
こちらのブログ記事でも触れたとおり、特にシニア層の方は、アイコンだけのインタフェースには戸惑ってしまいがちです。アイコンは使い慣れた人には有用ですが、前提の知識がなかったり、使う頻度が高くないユーザーにとってはハードルとなってしまいます。
らくらくスマホの各ボタンには、そこでできる操作がしっかり文字として書かれているのが好印象でした。
何がスマートフォンの価値なのか?
今回、私が十数分だけ触った時点では、「完成度がとても高いな」という印象を持ちました。パソコン教室で感じる「シニアによるスマートフォン利用時の課題」を、しっかりカバーしている感じがします。
しかもこれで月3000円という安い料金で済むなら、結構ありなんじゃないかと。
しかし『らくらくスマホ』は、基本的にアプリの新規追加はできません。
また表示される文字が大きい分、1画面に表示できる情報量にも限界があります。一般的なWebサイトを閲覧する用途には、少し厳しいと思います。良くも悪くも、できることがガラケーとほとんど変わらないんですね。
はたして、大きな画面を指で触って操作することが、スマートフォンの価値なのか?
様々なアプリをインストールし、生活をより豊かにできることが価値なのか?
つい最近までは、後者のような「シニアの生活をネットで豊かにしたい」という理想の思いから、なかなか諸手を挙げて『らくらくスマホ』をオススメできませんでした。しかし、この考えはガラッと変わっていくことになります。
らくらくスマホはガラケーを超えた?
今月に入って、何人かのシニア層の方に『らくらくスマホ』の実機を触っていただく機会がありました。
実はその時の反応が、ものすごく、ものすごく良かったんです。
「あらー、画面大きいわね!」
「文字が大きくて思ったより見やすい!」
「写真がとってもキレイね!」 等々
中には、「『らくらくホン』よりも使いやすい」という声もあり、驚きました。
ちなみに、同時にお見せした某社の普通のスマートフォンの方はボロカスに言われていましたので、ただ画面が大きいだけでは通用しないということですね。
「特にやりたいことがあるわけじゃないんだけど、若い人も持ってるし、使えたら楽しいんだろうなぁ…でも使いこなせるか不安だわ」
そんな思いを持っているシニアに、グサッと刺さる商品だと感じました。
ちなみに、らくらくスマホのメニュー画面では「インターネット」「dメニュー」というボタンがギリギリ常に目に入る位置にありますが、これを見て、「ここからインターネットができるの?」と興味を持たれたシニアの方も何人かいらっしゃいました。
なるほど、こうして段差を小さくしてあげることによって、インターネット人口もさらに増えるように思いました。
Android端末が生き残る道
2年ほど前のITmediaの記事に、以下のような議論がありました。
AndroidはiPhoneに対抗するべきではない
夏野:Androidは、iPhoneと戦うというよりは、普通のケータイに変わるために、もっと小さい形あるいはタッチパネルなしのものとかをどんどん出していかないと。スマートフォンという領域では、iPhoneに一日の長がありますよ。スマートフォンオブザイヤー2010特別対談 - ITmedia Mobile
今回ユーザーの反応を見て、『らくらくスマホ』というのは、まさしくカスタマイズの効くAndroidの強みを生かした商品なのだろうなと思いました。
売れているiPhoneを追いかけてレッドオーシャンに突っ込むのではなく、徹底的にターゲットを絞り込んで割り切った商品を開発するという姿勢は、他のメーカーでも真似できるものではないでしょうか。
ターゲットを絞り込むことで、「アプリの追加はできない」「一度に見せる情報量を制限する」という『引き算』の機能が実現できた本端末。Android端末の一番の特徴は、「カスタマイズで何でも足せる」ことではなく、「何でも引ける」という部分なのではないかとひしひしと感じています。
参考サイト
・新たなシニア・スタンダードを築くか? 「らくらくスマートフォン」の“文句ない出来栄え” - デジタル - 日経トレンディネット
・タッチ操作に慣れない高齢者に最適! 思い切ったコンセプトの「らくらくスマートフォン」:PC Online
・らくらくスマートフォンは、どこまでスマートか? | 村田裕之の団塊・シニアビジネス・高齢社会の未来が学べるブログ
・シニアにはスマホよりタブレットが本命である5つの理由 | 村田裕之の団塊・シニアビジネス・高齢社会の未来が学べるブログ