高齢者意識を決めるものは何か?
 前回、高齢者意識について調査したが、その結果を再び見てみよう。
※高齢者意識とは、「何歳から・いつから高齢者であるか」について様々な年代の人が持つ意識のことである。

 図1は高齢者意識に関しての60歳以上の人の回答の結果である。「自分の年齢層から高齢者が始まる」と考えていた割合が最も高かったのは70~74歳の年齢層だった。それに加えて、70~74歳を境に「自分より上の年齢層から高齢者が始まる(=自分はまだ高齢者ではない)」と「自分より下の年齢層で高齢者は始まっている(=自分はすでに高齢者)」の割合が逆転した。つまり、多くの人の間で「70代前半から高齢である」という意識が強いことが確認できた。
 また、別のデータからは「70代後半からは支えられるべき年齢である」と考えている人が多いことも分かった。

 今回の目的は、人々の間で高齢者意識がどのようにして形成されるのかについて探ることである。

※ちなみに日本では一般的に高齢者は65歳以上との定義づけがなされており、65~74歳は「前期高齢者」、75歳以上は「後期高齢者」と呼ばれている。
引用://policy.doshisha.ac.jp/keyword/archives/2008/05/post_40.html

高齢者意識の形成にはイメージの影響が大きいのか?
 人々の高齢者意識は加齢とともに大きく変化するのだろうか?あるいは、若いうちからある程度意識が固定されてしまっているのだろうか?図1の結果で70代前半でのグラフの大きなはっきりとした変化を見たところ、多くの人が70代に差し掛かる前から、もともとある程度の共通認識を持っていたのだと思う。70代付近で他の年代に比較して大きな健康問題の変化があるわけでもない(図2、3)。

 さて、あらかじめある程度の共通認識があるとすると、それはいつごろ形作られるのだろう?年代ごとにどのような高齢者意識を持っているのかを調べてみた(図4)。

 このデータによると、若い人も含めてだいたいどの年代も「70歳から高齢者」と考えている人が多いようだ。20代においては他の年代の回答よりもグラフの形が少しだけ左に偏っているが、回答者の年代があがると「およそ70歳以上」の項目のピークが鋭さを増す。
 
 多少の違いがあるとはいえ、回答者の年代に関わらずグラフの形はだいたい同じようになる。これは、高齢者意識についてどの年代もある共通認識を持っているということだろう。そしてさらにグラフのピークの様子から、高齢者意識は若いうちからある程度固定され、加齢に伴ってそれがはっきりしてくるものだろうと予測できる。

イメージを形成するものは?
 ここまでの高齢者意識の形成過程をまとめると、次のようなモデルができそうだ。
・70代に差し掛かる前に人々の間では高齢者意識に関しての共通認識がある。
・そしてその共通認識は20代ですでにある程度形作られていて、その後加齢とともにはっきりとしてくる。
 
 ではそのイメージを形成するものはいったい何だろう?次のデ―タがそれを解く手掛かりになりそうだ。回答者の年代ごとの、「どの時期から高齢者であるか」という意識調査の結果である(図5)。

 さてこの図では「年金を受給し始めた時期」に第一のピークが起こり、「身体の自由がきかなくなった時期」に第二のピークが生じている。20代のみがふたつのピークが同じ高さである。しかしそれ以外のすべての年代では、「身体の自由がきかなくなった時期」が最大のピークとなる。
 これは先ほどの高齢者意識の形成過程モデルによって説明できそうだ。「20代のうちにある程度高齢者意識に関しての共通認識が形成される」ということは、図5においてピークがふたつ生じるということに対応する。そして「加齢によってその共通認識がはっきりしてくる」ということは、図5において回答者の年代が上がるとふたつのピークに差が出てくるという結果に対応する。

 「年金」というものは、若い世代にとって確かに高齢者をイメージしやすいものである。しかし年金受給年齢は70歳よりも低い(これらのデータは多少古いものであるので、年金受給年齢と言ったらだいたい60歳ということだろう)。そうすると、図5で20代の回答が「年金を受給し始めた時期」に集中したことと、図4においてグラフの形が左寄りになったことは相関があるだろう。
 さて、40代、50代…と年齢が上がると自分自身の体力がキツくなってくる。それが自然と高齢者意識の判断基準を「身体の自由が効くかどうか」へシフトさせるのではないだろうか。これが「加齢によって共通認識がはっきりする」ということである。また、データには無いが、加齢によって共通認識をはっきりさせるものとして両親の高齢化という問題も考えられるだろう。

まとめ
今回の調査結果を次のような高齢者意識形成モデルとしてまとめて締めくくりとしたい。

 まず20代などの若いうちは、年齢の遠さゆえに高齢者意識についてしっかりと感覚が伴わない。よって年金などの分かりやすい基準が高齢者イメージの形成に寄与する度合いが大きい。そのため、70歳よりも若い年齢ですでに高齢者であるとのイメージを持ちやすい。また、両親の年齢もだいたい50代辺りであり、まだまだ元気そうにしていることを見るとなかなかはっきりした意識が湧きづらい。

 一方で40代、50代…と年齢を重ねていくと加齢による自身の体の衰えにより「身体の自由が利かなくなったら」高齢者だという意識が芽生える。その結果図5のように「身体の自由がきかなくなった時期」にピークが発生する。そこには単純な年金などのイメージだけではなく、自身の加齢という重みがある。また、このころになると両親は70、80代。前は元気だったけれどさすがに年老いてきたな、という感じる人が多くなる。

だいたいこのようなところではないだろうか。

データソース
高齢者の健康に関する意識調査結果 平成19年
年齢・加齢に対する考え方に関する意識調査 平成15年

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