ウェブとシニアの常識の10の溝

ウェブサイト制作者がどんなに頑張ってもどうしようもない「仕様」というものがあります。例えば「×を押すとウインドウが閉じる」など。
極端ですが、そういった「あたり前」がシニアには通じないものがあります。通じなくてもいい仕様もあれば、シニア層が引っ掛かって操作が出来なくなる仕様もあります。

ほとんどがウェブサイト制作者泣かせの「どうしようもないよ」な問題ですが、「こんな人たちも見ているんだなあ」ぐらいの参考になれば幸いです。(大柳)

1.URLとメールアドレスは違うということを解っていない

名刺や新聞・雑誌の切り抜きを手に、ホームページを見よう・メールを送ろうとがんばるシニア。普段からインターネットもメールもなんとなく使えているのに、今日はうまくいかない、という彼らの失敗の原因は何でしょうか。

予測できることとしては、全角で入力している、「.」と「,」を間違えている、「1」と「l」を間違えているなどの入力間違いが挙げられます。これはもう宿命としか言いようがありませんので、それほど驚くことでもありません。

よりシニア的だと感じるのは、メールアドレスとURLの区別がついていない時です。アドレスバーにメールアドレスを入れていたり、URLでメールを送ろうとしていたり。両者の違いは通常「@」や「http://」などで判断するのですが、両方に接していないと違いや共通点を認識できません。解らない人にとってはどちらもアルファベットの羅列に過ぎないのです。

2.入力する時に画面を見ていないから間違いが多い。

シニアはアクセシビリティをしっかり考えてつくられている入力フォームでもなぜか失敗します。どんなフォームでも共通する失敗の理由は、「入力時に画面を見ていない」ことからきています。

郵便番号を入力する場合を考えてみましょう。郵便番号は考えなくても入力でき(ただし、自宅の郵便番号を知らないシニアはいます。郵便番号は必須項目にしないほうがよいでしょう)、キーボードを見ながら軽快に入力します。数字ですから入力も楽です。ハイフンはそれこそ目を皿のようにしてキーを探します(ハイフンを入れない、という選択肢はありません)。7桁入力し終わって、画面を見ると、3桁部分と4桁部分にフォームが分かれているということがあります。「入力したのが消えてしまった!」このセリフは3桁部分に7桁すべてを入力してしまい、表示がおかしくなるために発せられる言葉です。キーボードを注視し、画面を見ていないが故に起こる間違いともいえます。 

若い世代との違いは、ここで分割されていることに気づき適切に対処ができるか、「消えてしまった!」と戸惑い、対処できない・何がいけないのか解らないかにあります。フォームによっては間違った入力をするとエラーダイアログが出るものもあります。これも、入力時に画面を見ていないシニアには意味を成さず、最後まで入力し終わったと思って顔を上げると画面にエラーが出ている、という大変怖い状況になります。

また、入力し終わったらとにかくEnterキーを押すものだと考えているシニアも多く、直接入力時でもためらいなくEnterキーを押してしまいページが遷移してしまいます。単純に文章を入力している時とは違い画面が大きく変わるため、驚いて対応できない場合がかなりあります。シニアの「変化に弱い」という特徴を如実に表しています。

3.「メールアドレスを入力してください」が難しい。

「お名前、ご住所、お電話番号を明記の上…」の耳慣れたフレーズ。懸賞応募でも会員登録でも、この3つは必須です。ウェブからの登録にはこれに「メールアドレス」が加わります。インターネットで買い物をしてみたい! という方が一番最初に困る部分はこのメールアドレスの記入です。

なぜ困るのか。答えは簡単で、自分のメールアドレスが解らないからです。
普段メールを使っていても、会員登録で入力を求められて慌てて手帳や名刺で確認する、なんてざらです。自分のメールアドレスを知らなくてもメールは送れますから。
そもそもインターネットで何かを申し込んだことがない人は、申し込み時にメールアドレスが必須項目であることを予測していません。住所や生年月日は即答できても、メールアドレスは無理。「そんなものどうして必要なんだ」と憤慨してみたり、流行の個人情報の漏洩を恐れみたり。女性の場合、「パソコンのメールアドレスは主人のしかなくて…」「子どもに聞いてみないと…」と、その場で処理できないことが多くあります。
メールアドレスはまだまだ住所・電話番号ほど浸透していないのです。

4.「クリックしてください」の意味が解らない

普段パソコンを利用していて、どんなときはシングルクリックでどんなときはダブルクリックか、明確に説明できますか? ウインドウを開くときはいつもダブルクリックでしょうか。デスクトップにあるマイドキュメントを開くときはダブルクリックですが、スタートメニューから開くときはシングルでいいですよね。このあたり、言葉で説明するのって解っている人でも面倒です。

大は小を兼ねる、でなんでもダブルクリックにしている人はかなりいます。ところでウェブサイトを閲覧するのにダブルクリックは必要でしょうか。当然、ほとんど必要ありません。むしろ送信ボタンなどは、ダブルクリックされると困ります。
パソコンはダブルクリックがデフォルトだと思っているシニアは「クリックは一回だけにしてください」と明記してあっても「はいはい、一回ね」と一回ダブルクリックしてしまったり。言葉って難しいなと感じる瞬間です。

最近のパソコンではデフォルトの設定が[ポイントして選択し、シングルクリックで開く]になっている場合があるようですが、家族と共用のパソコンだと、大抵息子・娘に設定を変えられます。辛いところです。

5.「サイトマップ」とは何か理解しようともしない。

サイト構造が解らない場合、ウェブを良く知っているならサイトマップから目的のページを探す人も多いのではないでしょうか。
実はこれ、シニアも一緒です。でも理由は違います。

「地図のところに会社の名前や電話番号も一緒に書いてあるんじゃない?」という本人以外には非常に理解し難い理由からです。まず「サイトマップ」には会社へのアクセス情報等が書いてあると思っています。「サイトマップはサイトの地図である」という常識は通用しません。
「サイトってよく解らないけどマップは地図でしょ。地図って言ったら地図じゃない。」が彼らの思考です。解らない言葉は省いて考える。そして地図があるところには当然会社名もあって、行き着けなかったときのために電話番号も併記してある、解らないことは電話で聞ける、という連想と言う名の思い込みが成り立っているのです。

また、シニアはサイトの運営者について非常に気にし、会社概要にあたるものを探したがります。そのあたりを考えて作られているサイトは、ちゃんとトップページに会社概要ページへのリンクがありますが、サイトによってはリンクがあっても「わたしたちについて」などとなっていて解りにくくなっています。
企業情報や電話番号はシニアの警戒心を解く重要な要素になるので、明確な言葉で示す必要があります。

6.検索結果の見方も解らない。

インターネット初心者のシニアだと、検索の仕方や検索結果の見方がよく解っていない場合があります。検索の仕方なら「検索語が広すぎる」「文章を入力してしまう」など。
「僕はインターネットは使えます」と入会された方でも、「絞り込み検索の仕方を知らなかった。2個以上言葉を入れてもいいなんて!」ということが多々あります。

検索結果の見方でよくあるのは、「次のページがあることが解らない」「『1・2・3・4…』の意味を解っていない」、などがあげられるでしょう。検索結果の見方までは簡単に予測もつき、知識的な問題ですから間違いを正すこともできますが、大変なのが「検索結果ページとウェブサイトの違いが解らない」というケースです。

要するに、ウェブページというものが無尽蔵にあること、それをある言葉で検索して抽出していることが直感的に理解できていないため、検索結果を見て「で、これしかないの?」という言葉が出るのです。検索をGoogleのI’m Feeling Luckyのように捉えている、と考えていいでしょう。

こういった方の場合、検索結果をクリックすればサイトが見られ、情報が得られる、ということを理解するまでに時間を要します。教えてくれる人がそばに居ればよいのですが、誰もがそうとは限りません。

また、検索時の間違いに、「検索ボックスにURLを入れてしまう」というものがあります。アドレスバーより検索ボックスのほうが目に付きやすいので、そこにURLを入れたくなってしまうのです。
大きなサイトならURLで検索しても結果は適切に出ますが、新しいページやキャンペーンサイトなど、検索されないこともあります。検索ボックスにURLを入力した場合、自動的にそのURLに遷移してくれるようになるほうがシニアには優しいといえます。

7.ウェブの常識である言葉の直訳は得てして通じない

シニアはカタカナやアルファベットが苦手です。ビートルズが好きであろうが、ジャズが好きであろうが、カタカナは苦手です。その点についてウェブサイトを作る際は、注意しなければいけません。

でも、頭を硬くしてなんでも日本語表記にすればいいかというと、そうではありません。翻訳サービスを利用してある言語の別の言語で表示したとき、あまりの直訳に笑ってしまうこと、ありますよね。それと一緒です。

面白い例に、ドラッグアンドドロップがあります。稀にJavaScriptでドラッグアンドドロップで操作できるサイトがあります。説明にあったドラッグアンドドロップとは何かと聞かれて、「ドラッグは引きずるという意味、ドロップは落とすという意味です。だから、こう、ここを…」と説明していて、最終的にマウスを引きずってデスクから落とされたことがあります。目的語がマウスかファイルやコンテンツかでまったく違ってくるので、説明が良くなかったということもあると思いますが、サイトに「引きずって落としてください」と書いてあっても、やっぱりわからなかっただろうな、と感じます。 

コンテンツ、ダウンロード、アクセス、いろいろな言葉がシニアにとって「伝わらない」言葉となっています。

8.アカウントとパスワードは考えなければならない、そして忘れてはいけないという意識がない

「登録・購入時にはメールアドレスが必須である」と同様に、ウェブ会員登録前に予測していないこととして「アカウントとパスワードを作らなければならない、さらにそれを覚えておかなければならない」ということがあげられます。何かを自分で考えなくてはいけないということはつーチンワークで日常が成り立っているシニア層にとって非常に辛い行動です。
さらに、アカウントとパスワードを作るという事がルーチンワークと捉えられるようになるまでは時間がかかります。他の人に使われてしまっているIDは使えないというのもイライラに拍車をかけます。このあたりは若年層でも経験があることでしょう。

作ったアカウントやパスワードが解らなくなるというのも、年齢を問わずあることですが、シニアになると本当に涙が出るほど解らなくなります。原因としては、アカウントもパスワードも、登録時にはそれほど大切なものだと思っていないということがあります。「忘れないようにしてください」と注意書きがあっても、それが「覚えていてくださいね」「覚える自信がなければメモをするか印刷してくださいね」と言われているとは露ほどに思わないのです。ましてそれがログイン時に毎回必要になるとは思いもよらない。そして「忘れても教えてもらえるだろう」という思い込みがあります。たとえば銀行の通帳を紛失しても、きちんと手続きをすればまず問題はありません。(銀行の暗証番号は忘れないように覚えやすい番号になっているというのも問題です。) 

ウェブのパスワードなども銀行のパスワード同様に考えている傾向があります。確かに銀行のパスワードと同じようなものですが、その手続きは簡単ではありません。登録時のメールアドレスがわかり、生年月日をごまかさずに入力していて(重要)、秘密の質問に正確に答えられる。そういった難関があるのです。

「秘密の質問」の意味も大変難しく、秘密の質問はパスワードを思い出すためのになるものだと勘違いしているケースがとても多いのが秘密の質問を複雑化させている原因となります。秘密すぎて覚えていられないことも多々ありますし、設問が出てくるのではなく選択肢から思い出させる場合には悲惨という言葉以外思いつかないほど大変です。

最近は不正な自動登録を防止のため、「画像の中の英数字を入力してください」などもよくあります。てっきりそれがパスワードだったと思って大慌てになる人もいます。登録時にパスワードが非表示になるのも、パスワードが解らなくなる原因の一端でしょう。

9.サービスによってアカウントもパスワードも違うことが解らない。

ブログの更新などで、「家のパソコンでならできるが他のパソコンではできない」と戸惑われる方、逆に「家のパソコンでできるのは理解できるがなぜ他のパソコンでもできるのか解らない」とおっしゃる方がいます。

前者の場合、クッキーやオートコンプリートが有効に機能していて、アカウントもパスワードも入力する必要のない状態にあると考えられます。普段アカウントやパスワードを利用していないと、突然必要になったときにとても困ります。
「ここにメールアドレスを入力するとパスワードが出てくるから大丈夫ですよ」と教室で自信満々に仰る方もいます。

また、パソコンで使うアカウントやパスワードは1種類しかないと思い込んでいる人もいて、プロバイダから送られてきた書類ですべて対応できると思ってしっかり手帳に書きとめているも、さっぱりログインできないという状況に陥ります。サービスごとにアカウントもパスワードもすべて別個のものであることが解っていないのです。

後者は、パソコン(または回線)とサービスが繋がっていると考えている典型です。パソコンを2台、ブログを2つ持っていて、一見使いこなしているように見える人が、「このパソコンではAのブログ、あのパソコンではBのブログを作ったんだ。古いパソコンは廃棄したいんだけど、ブログが書けなくなっちゃうから棄てられないんだ」とおっしゃることは多々あります。

どちらも根本の原因はアカウントとパスワード、ログイン・ログアウトの関連付けができていないということです。日常生活でログイン・ログアウトにあたる操作をすることはまずありません。よく通帳と暗証番号が例に挙げられますが、銀行の場合は強制ログアウトです。クッキーによる自動ログインはありません。このあたりが混乱を招きます。
クッキーは便利ですが、ログアウトしなければ危険であることを知らないシニアがほとんどです。その便利さを享受して他のパソコンでもそうだろうと思い込んでいるシニア層が多いことは間違いありません。

10.ウインドウと閉じるボタンや戻るボタンの関係が解らない

本当に初めてインターネットを使った人から、最後に「インターネットを終わらせるのはどうしたらいいの?」と聞かれることがあります。今からインターネットを使うシニアでダイヤルアップを選ぶ人は稀ですから、ウインドウを閉じればおしまいです。
そんなことも解らないなんて、と思われるかもしれませんが、このあたりは最初だから解らないこと。仕方ありません。

「×」の印は「閉じる・終わる」のメタファーとして非常にわかりやすく、すんなり理解できます。戻るボタンも同様です。それでも閉じるボタンや戻るボタンをクリックすることでなんらかの失敗をするのがシニアです。彼らの失敗は、マルチウインドウを理解できていないことからきています。

解るひとには「なぜそっちのボタンを押してしまうんだ!」といらいらすることこの上ないのですが、シニアはなぜか非アクティブウインドウのボタンをクリックします。原因はボタンがウインドウに付属しているものだと理解しておらず、画面のある一定の部分にあるものと認識しているため、また、アクティブウインドウと非アクティブウインドウの違いを認識できないためです。

別ウインドウで新しいページが開いた場合、画面がどんな状態になるかはパソコンによってかなり違いがあります。一概には言えませんが、元のウインドウより一回り小さく且つ重なるように開くケースが多いと思います。まず多くのシニアは最大化しません。小さいウインドウをがんばってスクロールして閲覧します。非常に見づらいですので、途中で嫌になったり、間違ったページを見ている気分になり、前のページに戻りたいと感じます。
そして、「いつもの位置」にある非アクティブウインドウの戻るボタンを押して、失敗するのです。さらに、同様なことを繰り返していくとウインドウは山のように開きます。もう今日はおしまい、という段階になって、閉じても閉じてもウインドウがなくならない状況に陥ります。閉じるボタンも画面のより左上にあるものから押していこうとするため、押しても押しても画面が変化しないように感じ、すわウイルスか、と心拍数があがります。血圧にもよくありません。

ウインドウは複数開けること、アクティブウインドウのボタンを操作しないと思い通りの動きをしないことさえ理解できれば簡単に回避できることですが、これをシニアに直感的に理解してもらうのは難しいのです。